役割意識がリハビリの阻害因子になるケース

気づいたこと

訪問リハビリから学べる貴重な経験

訪問リハビリという分野において、その効果を左右する要素のひとつに〝モチベーション〟が大きく関係しています。多くの方は〝役割〟や〝活動する目的〟が明確に提示されることでリハビリに対する意欲が向上したり、生活にメリハリが生まれて活動量が向上するといった関係性があると言われています。

一方で私が訪問リハビリで出会った利用者さんのなかには〝役割意識〟が強すぎることにより、スムーズにリハビリに取り組むことができなかったという経験もしたことがあります。どうしてそのような展開になってしまったのか要因を整理していみると、意外な結論が見えてきました。

リハビリを始めてみたが

その方は高齢夫婦の二人暮らしで、ご主人のもとに毎週二回に訪問リハビリに伺っていました。奥さんはとても甲斐甲斐しくご主人の面倒をみており、毎回リハビリをしている部屋に来ては様子をみながら一緒に話しをしながら過ごしていました。

そんなある日、ご主人の担当ケアマネジャーから事務所に連絡があり、奥さんのリハビリも願いしたいという依頼がありました。ご主人の介護で腰痛が強くみられ、主治医の先生に勧めらたようでした。指示書もすぐに届き、奥さんのリハビリが開始されます。

リハビリの内容については、腰背部のストレッチ、リラクゼーション、軽めの筋力練習とともに、自主練習の提案をしながら進めていました。加えてご主人の介助方法についても負担がかかり過ぎないようアドバイスをさせてもらいながら一ヶ月ほどが経ちました。

一度は断ったリハビリを

リハビリが終わる間際になると決まって〝なんだか身体がふわふわする〟という訴えが聞かれるようになりました。最初は力の入れ具合が合わなかったのかと思い幾度が介入方法を調整したのですが、結果は変わらず、わずか二ヶ月足らずで終了してしまいました。

それでもご主人のリハビリは継続していたため、毎週顔を合わせる時に調子を確認しながら経過をみさせてもらったのですが、やはり腰痛の症状は残っており介護が大変そうな様子でした。

しばらくしてご主人の体調が悪化して入院することになりました。長期の療養が必要となり訪問リハビリも終了することになったので自宅に挨拶に行くと、奥さんから〝リハビリを再開してもらいたい〟という申し出がありました。

その後は落ち着いて

リハビリが再開されて以降、リハビリ内容は以前とさほど代わりはないにも関わらず、リハビリを受けたあとの身体の不調については一切訴えが聞かれることはなくなりました。また、以前よりもリハビリに対する意欲も高く、毎週の訪問を楽しみしにしてくださるようになっていたのです。

なぜ奥さんは、ご主人が入院した途端リハビリに協力的になってくれたのでしょうか。この経過についてご家族からの情報を踏まえて振り返ってみると、奥さんが担っていた〝役割〟が原因だったということがわかりました。

奥さんは常日頃からご主人の介護を担う〝役割〟があったのですが、責任感が強い性格も影響して、腰痛が原因でリハビリを受けている自分自身を認めたくなかったようでした。ご主人の前では弱い自分を見せずしっかり者でいなければいけないという思いから、リハビリには消極的だったいう結論に至りました。

なにかにつけて〝役割を見つけましょう〟と言ってしまいがちですが、その〝役割〟が負担となって日常生活に支障をきたしてしまうというケースがあることを知れた貴重な経験となりました。

まとめ

リハビリの効果とモチベーションの関係は

⑴役割があったほうがリハビリの効果も得られやすく活動する動機付けになることは間違いない

⑵ただ、役割の内容やその人の性格によってはそれが足かせとなってしまうこともある

3身体機能や障害だけに目を向けず利用者さんが置かれている環境も評価の対象になる

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