生活環境を切り詰めるという生き方

訪問リハのこと

在宅生活が行き詰まってしまうケースは意外と多い?

訪問リハビリでお会いする利用者さんの中には、身体機能や動作能力に適した生活環境が提供されず、日常生活が成り立たなくなってしまうというケースが存在します。

介護保険サービスの中には住環境を整備する目的として、福祉用具の導入や住宅改修の費用を一部負担してもらえる制度があるにも関わらず、利用者個人の考えや意向からこうしたサービスを利用しない人も少なからず存在しているのが現状のようです。

倹約家の利用者さん

私が以前に訪問リハビリで伺った利用者さんは、疾患の影響から右半身の麻痺を呈されていたのですが、一人暮らしをしたいという希望が強く、退院後はアパートを借りて暮らすことになっていました。

身体機能的には麻痺の影響から生活動作が不安定になりやすく、床上動作、屋外歩行が辛うじて自立されているレベルでしたが、本人の強い希望で一人暮らしを前提とした自宅退院になったようです。

ケアマネジャーから訪問開始日の連絡が入り、当日利用者さんの家に伺ってみて驚きました。退院後に借りたアパートは、縦長で四畳半程度のスペースにタンスや衣装ケースがびっしりと置かれ、床には折りたたまれた布団が置かれていました。

ロフトのスペースも設けられていたのですが、利用者さんの動作能力ではハシゴの昇降は難しく、必然的に物置として利用されていましたが、利用者さんが意図的に利用できる環境ではありませんでした。

どうやって生活しているのか

基本的に日常生活で使用できるスペースは2メートル四方の面積だけでした。そこに小さいテーブルとパイプ椅子を置くだけで、すでに狭く感じます。

眠るときはどうしているか尋ねると、折りたたまれた布団を敷くスペースも、自身で布団を敷く身体能力もないため、丸まった布団に寄りかかるか、屋外に保管してある車椅子で夜を明かしていたそうです。

食事についても料理をすることはなく、コンビニ弁当や菓子パンで過ごす毎日でした。一方で大好きなタバコと缶コーヒーは毎日欠かさないようにしていたそうです。

このような生活を長く続けられることもなく、利用者さんの生活動作も少しずつ介助が必要な状態になってしまいました。ケアマネジャーさんに最低でもベッドの導入か、もう少し広い住まいに引っ越すことができないか提案してみたのですが、すでに本人に提案済みの上、断られていたそうです。

倹約の精神が仇に

ケアマネジャーさんの提案を断った理由は〝お金がもったいないから〟だそうです。であれば、生活保護の申請をして少しでも生活環境の改善を図るべきではないかと思ったのですが、それもだめでした。

当然ですが、ケアマネジャーさんもこうした状況を打開すべく生活保護の利用申請を試みたのですが、貯金があるため申請を取り下げることになったそうです。生活保護を利用できない程度の貯金があるにも関わらず、本人がお金を使いたくないという理由から生活環境を切り詰めていたのであれば手の打ちようがありません。

結局のところ、この生活環境から抜け出すには、本人が奮発をして広い住宅や介護サービス付き住宅に引っ越すか、生活保護の申請が可能になる額まで貯金を取り崩した生活をしてもらうしかありませんでした。

その後の利用者さんは

ある日ヘルパーさんが訪問してみると、パイプ椅子に座った状態で意識を失っており救急車で緊急搬送されたそうです。脱水と栄養失調だったそうです。

入院期間中お見舞いに伺ってみると、退院後はまた一人暮らしを希望されていたようですが田舎に住む親族の方が支援者となり一緒に生活してくれることが決まりました。この時点でh訪問リハのサービスは終了となり、利用者さんは無事に田舎へ引っ越されていきました。

まとめ

①身体機能、動作能力に合わない環境での暮らしは長続きしない。

②節約や倹約の精神は必要だが、生活環境を切り詰めてはいけない。

③在宅生活の主役はあくまで利用者さん自身だが、必要な提案は積極的にすべき。

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