住環境の変化が歩行能力に及ぼす影響について

気づいたこと

退院と転居の違い

病院から自宅に退院した患者さんの多くが、一時的にADLが低下するという話はよく耳にしますが、その背景には様々な理由があるように思います。

住環境の変化はもちろんのこと、支持者が看護師さんやセラピストから家族に変わる人的な環境の変化なども大きな影響を与えています。

その中でも一番の要因は〝身体を動かす機会が減少する〟ことです。これはほぼ全ての患者さんに言えることですが、在宅の環境では病院ほど手厚いリハビリを受けることができません。

多い人で週に6日、1日3時間みっちりリハビリのスケジュールが組まれていた環境から、在宅では一週間に一回、多くて二回の2時間しかリハビリを受けることができません。

これでは病院では自立して歩けていた患者さんも、自宅では車椅子を使っている実情も致し方ないように思えてしまいます。

そんなことを思いながらリハビリに伺う利用者さんの中には、少し変わった理由で〝歩行能力〟が低下することもあります。

そこで今回は、転居に伴い歩行機能が低下した事例についてご紹介します。

転居でも身体機能は低下する

〝病院から自宅〟ではなく〝新しい自宅へ引っ越し〟だけでは、そこまで活動量も変わらず生活面への影響は少ないものと思っていたのですが、実際には違いました。

ある利用さんは、脳出血の後遺症として半身麻痺を呈されており、リハビリ病院を経て自宅に退院されました。リハビリの甲斐あってT字杖のみで自立にて歩けるほど回復されていました。

それから10年後、集合住宅の取り壊しに伴って転居されることが決まり、今までよりもよりよい住環境の整った住まいに移ることができました。

以前は階段を上り下りしていたものがエレベーターに。また、自宅内もバリアフリーの環境が整っており、とても快適に暮らしていたのですが、次第に歩くスピードが遅くなっていったそうです。

その後、一人で外出した際に歩道の段差で身動きが取れなくなってしまい失禁。その後はひとりで外出する機会がなくなってしまいました。

バリアフリーにはデメリットもある

まずはじめに気になったのが〝住環境の変化〟でした。以前は必要に駆られて〝階段昇降〟や〝室内の段差〟を意識した生活を余儀なくされていました。

しかし新しい転居先では、こうした段差と向き合う必要はなく、歩行中に麻痺側下肢の注意もそれほど行う必要がなくなってしまいました。

そのため、普段の生活に要する筋力活動が生じなくなり、自覚がないまま体幹の筋力が低下していることがわかってきました。

ある作業療法士の先生が〝バリアアリー〟という環境を紹介していますが、まさにそれが大事な環境だったということになります。

失敗体験が身体を緊張させていた

外出時の失敗体験も、身体機能へ多いな影響を及ぼしていました。その違いが、屋内外の歩き方に大きく現れていました。

自宅や集合住宅の廊下を歩く際は、ぶん回し歩行ながらも良いペースで歩けているのですが、一歩〝屋外〟に出てしまうと途端に歩容が乱れ、動きに硬さが生じていました。

そこで車椅子を後ろに用意した環境で歩行練習を行なってもらったところ、余計な力が抜けて少しずつ屋内と同じ歩容出歩けるようになりました。

〝いつでも座ることが出来る〟という安堵が屋外歩行の失敗体験を和らげ、安心して歩くことができるようになりました。

長い介入期間は必要ない

このような事例では、一時的な筋力練習やバランス練習に加え、自信を取り戻すための屋外歩行練習を実施することが大切なのだと思います。

実施にこの方の介入でも、初回の介入でそれまでとは違った歩容、歩行スピードで歩くことが出来るようになったため、身体的な変化はほとんど影響していませんでした。

それよりも〝歩けなくなった原因を推測し、安心して歩ける環境を設ける環境〟が整ってしまえば、あとは利用者さんのモチベーションに委ねるだけです。

あとは利用者さんの練習意欲に任せて、自主練種のメニューを提示するだけで訪問リハビリの役割のほとんどが終了してしまうのではないでしょうか。

まとめ

転居に伴う歩行機能の低下について調べた結果、

⑴階段や段差など、ある程度の〝暮らしにくさ〟がよいリハビリになっている。

⑵失敗体験による心理的な影響が歩容の乱れに大きく感駅していることもある。

⑶安心して歩くことが、いずれは自信を持って歩くことに繋がっていく。

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