棺桶とリハビリテーション

気づいたこと

寝たきりの患者さんのリハビリテーションを通じて

私が作業療法士の免許を取得して初めて就職をしたリハビリ病院では、回復期病棟のほかに維持期と療養の病棟を構えていました。

リハビリスタッフは病棟専従の担当制だったため、私も療養病棟の担当をさせてもらっていた時期がありました。療養病棟に入院されている患者さんの多くは寝たきりに近い状態で、リハビリの時間はベッドサイドリハが中心となっていました。

ちなみに訪問リハビリでも寝たきりの利用者さんに出会うことは多くあります。ただ、状態が安定している時にしか実施することができないため、終末期に移行する頃には看護師さんにバトンタッチすることが多いような気がします。

療養病棟の患者さんを通じて考えたこと

私が担当させて頂いた利用者さんは、寝たきりの状態で四肢の筋緊張も高く、筋肉の短縮、関節拘縮が著しい症状としてみられていました。

ベッドサイドに伺い手足の関節可動域練習、ストレッチ、リラクゼーション、手浴を中心にリハビリを行なっていたのですが、まだ若かった私は、大きな変化がみられない状況に〝本当にこの内容のリハビリを継続していていいのか〟という疑問を持つようになりました。

同期の作業療法士は回復期病棟を担当しており、リハビリ室で機能練習から起居動作や更衣練習と身体機能の変化が多い環境で仕事をしていることに若干のうらやましさがあったような気がします。

そんなちょっとした悩みを解決できないものかと研修会を探していたところ、ちょうど療養病棟をテーマにした研修会を見つけ参加してみることにしました。

介護負担の軽減の意味

その研修会では、ベッド上で寝たきりの患者さんに対して行うリハビリテーションの必要性や考え方について講義が進んでいきました。

そこで初めに教わったのが〝介護負担の意味を考える〟ことでした。セラピストの視点で〝介護負担〟という言葉を使う時は、そのほとんどが〝介護者〟を対象にして使用していると思います。

そこで〝介護負担〟という言葉のなかに、介護をされる患者さんの視点も含めて考えるとよいという教えがありました。

例えば関節可動域の改善を例にすると〝着替えを手伝う介護者の負担〟が軽減されると同時に、無理やり肘を伸ばされた時の痛みも軽減するため〝介護される本人も負担が少なくなる〟という捉え方です。

棺桶に入る時に効果を実感する

こちらもご存知の方も多いかも知れませんが、私がこの話を聞いた時は正直驚いてしまいました。寝たきりの患者さんがお亡くなりなった際、当然ですがお通夜とお葬式が執り行われます。

ご遺体が棺桶に入れられる際に、例えば肘関節の屈曲制限や膝関節の伸展制限がある場合、棺桶に収まり切らない事態が発生することがあるそうです。

そんな時はどうするかというとバキバキと骨を折ってしまうのだそうです。その光景を見ている家族の気持ちを想像するととてもつらい気持ちになります。

こうした事態を避けるためには、日々のリハビリテーションがとても大切で〝関節可動域練習〟ひとつとってもその果たす役割はとても大きく、やりがいを感じられるものに思えてきたことを覚えています。

この研修会を通して、セラピストとして介入する時期によって役割が大きく変わってくることを理解できたと同時に、同じ練習内容でも実施する目的が違うという視点を持てるようになったことは、療養病棟のリハビリを経験できたおかげだと思っています。

まとめ

寝たきりの方のリハビリテーションの視点は

⑴利用者さんが介護される負担を減らすことができる。

⑵亡くなってからもリハビリをやっておいてよかったと思えることもある。

⑶同じ練習内容でも関わる時期によって担う役割は大きく変わってくる。

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