利用者さんにとって住みやすい家とは

気づいたこと

身体機能と精神機能

リハビリテーションを進めていくうえで大切な考え方のひとつに、身体機能と精神機能の関係性について理解を深めることはとても大切だと思っています。

〝身体機能面〟の改善だけに注力をしていても、実際に活動を起こそうとする〝意欲〟が沸いてこなければ動作を起こすことはありません。

私自身も作業療法士として働くようになって間もない時期に〝リハビリではしっかりと成果が出ているのになぜ生活範囲が拡大していかないのだろうか〟と考えこんだことがあります。

そんな中、実際に訪問リハビリの現場に出てみることで身体機能と精神機能の関係性についてとてもよく理解することができました。

生活しやすいけど住みにくい家

ある利用者さんは息子さん家族と同居をしていたのですが、その環境があまり好ましいものではありませんでした。住環境はエレベーター付きのマンションで高い段差も少なくバリアフリーの行き届いた間取りとなっていました。

しかし、息子さんの住むマンションに後から同居する形で引っ越してきたため〝利用者さんの部屋〟がない状態でした。そのためリビングにベッドを設定して生活していたのですが、テレビの音や孫たちが走り回る音が気になりゆっくり休めていませんでした。

また、同居することを快く思っていなかったお嫁さんの存在にも気疲れを感じ、いつしか迷惑を掛けないようベッド上でおとなしく過ごすという生活パターンが形成されてしまいました。

生活しにくいけど住みやすい家

その状況を見かねた近所に住む娘さんが同居を申し出てくれました。二駅ほど先に一軒家を構えていた娘さん家族が同居に賛成してくれたため、すぐに引っ越しが決まりました。

引っ越しに際して生活動線の確認のため自宅を拝見させてもらうことになりました。新居では一階に自室を用意してもらえたのですが、リビングや浴室が二階にあり階段や上がり框などの段差も多い点が気になっていました。

いざ引っ越しを終えて生活してみると、階段や上がり框の段差昇降を軽々と行い、二階のリビングで掃除や洗濯、食器洗いをする利用者さんの姿ががありました。

なによりも表情が以前と比べ物にならないくらい明るく、同居させてもらっているお礼に少しでも手伝えることはないかと自分の役割まで担うようになっていたのです。

居心地のよさを重視した住環境整備

息子さんの家で生活をしていた時と、娘さんの家に引っ越しをした後では身体機能面に大きな変化はありませんでしたが、生活場面をみるとその違いは一目瞭然でした。

リビングが主な生活場所となり、お嫁さんやお孫さんの目を気にしながら生活していた時期と比較すると、明るい表情で軽快に家事活動を行う利用者さんはまるで別人のように見えてきます。

おそらく、息子さん夫婦とこの一軒家に引っ越していたとしても、軽快に家事をこなす利用者さんの姿は見れなかったと思います。〝どこに住むか〟ではなく〝誰と住むか〟という視点で評価をしてみることが大切なんだと思います。

生活の質いわゆるQOLを高めるためには、身体機能と精神機能をバランスよくケアしていく大切さを学べた出来事でした。

まとめ

利用者さんの在宅生活を支えるために押さえておきたいポイントは

⑴バリアフリーの家でも住みにくさを感じさせる人間関係がある。

⑵ストレスの少ない生活は、それだけで活動意欲が高まりできることが増えていく。

⑶身体機能、精神機能の両方をバランスよくケアしていく視点が大切。

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